脳梗塞の治療

脳梗塞の急性期の治療は、脳梗塞の拡大と再発防止を目的に行われ、後遺症を最小限に抑えて早期に社会復帰が可能な状態に回復していただくことにあります。 脳梗塞の治療の多くは、薬を中心とした内科的な治療が行われます。

t-PA(ティーピーエー)とは?

脳梗塞は、動脈硬化で脳の血管が狭くなったり、心臓などから血栓が流れてきて脳の血管を詰まらせ、脳細胞を壊死(えし)させる病気です。
脳梗塞の中心部分では、脳細胞は壊死しますが、その周囲には、まだ壊死していない回復可能な部分、『ペナンブラ』が存在します。
血管が詰まったまま放っておくと『ペナンブラ』は数時間以内にすべて脳梗塞になってしまう領域です。
t-PAは、血管を詰まらせた血栓を溶かして血流を再開させ、『ペナンブラ』を救うことのできる血栓溶解療法のお薬です。

t-PAの治療効果

1995年に発表されたアメリカでの臨床結果によると、脳梗塞を発症して治療から3ヶ月後に後遺症が残らない程度に回復した割合が、 t-PAを使用しなかった場合では、26%だったのに対し、t-PAを使用した場合では、39%と大きく差が出たと報告されています。

t-PAの注意点

t-PAは、血栓を溶かす効果が非常に高い薬ですが、発症後4.5時間以内に治療を開始しなければいけません。
3時間以上経過すると、脳梗塞によって脳細胞や脳血管の損傷が進み、血流の再開とともに損傷した血管から脳出血を起こします。
また、発症4.5時間以内に病院に到着したとしても、多くの適応条件(血液の異常や既往歴、患者さんの全身状態、検査結果 など)を満たすことや、 検査に要する時間などから、t-PAを行えない場合もあります。

t-PAによる治療

t-PAによる治療解説
  1. 血栓により血管が閉塞脳梗塞巣の周囲には、回復可能な『ペナンブラ』が存在する。
  2. 発症4.5時間以内にt-PA治療を開始。血流を再開してペナンブラを脳梗塞に移行するのを防ぐ。

当院におけるt-PAの実際

症状

座っていたが右に傾き(右マヒ)、目の焦点が合わない。意識の低下。言葉が出ない。

MR検査

(1)発症時のMRI・MRA画像

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MRI (超急性期の脳梗塞を捉える画像)

左側の脳に白く描出されている脳梗塞が確認される

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MRA(MRによる血管撮影)

左中大脳動脈が1本しか描出されていなく血栓によって血管が閉塞した状態

(2)t-PA治療後の画像

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拡散強調画像 (超急性期の脳梗塞を捉える)

発症時、脳に白く描出されていた脳梗塞がほとんど消失している

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MRA(MRによる血管撮影)

t-PAによって血栓が溶け、閉塞した血管が再開通した

退院時の状態

 意識状態も正常に戻り、マヒなども発症前の状態まで回復した。

脳梗塞の症状を見逃さないで

  1. 顔の半分が急にマヒしてゆがんでいる
  2. 片方の手や足の動きが急に悪くなった
  3. ろれつが回らない、うまくしゃべれない
これらの症状のうち1つでも当てはまれば、70%以上、脳卒中の可能性があります。
とにかく一刻も早く受診をして下さい。
t-PAは、発症後4.5時間以内の使用に限られていますし、早く治療を開始するほど治療成績は上がります。
脳梗塞の症状

一番大切なことは脳梗塞を予防すること

 高血圧・糖尿病・脂質異常症などの、いわゆる生活習慣病や、メタボリックシンドローム、喫煙など、ふだんの生活を一度見直してみることが大切です。
また、定期的に受診や脳ドックを受け、脳の健康を維持するように努めましょう。

もっと詳しく!t-PA

 血液が固まる仕組みには『血小板』と『凝固因子』が関係しています。
何かの原因で血小板が活性化すると、血小板が集まって塊を作ります。
そこに凝固因子が反応を起こすと、『フィブリン』という繊維を作って血小板の塊をさらに固めます。これが血栓です。
しかし、血液中には、もともと血栓を溶かす作用をもつ『プラズミン』という物質があります。
通常、この物質は『プラズミノーゲン』という形で存在していて、血栓を溶かす作用はありません。
t-PA(組織性プラズミノーゲン活性因子)を投与すると、血液中では殆ど作用する事なく、血栓に到達してから『プラズミノーゲン』を、 『プラズミン』に変換して血栓を溶かします。
これはt-PAのもつ『フィブリン親和性』によるもので『フィブリン』に特異的に作用して全身への影響が少ないt-PAの最大の特徴です。

急性期脳梗塞のおもな薬物治療

急性期脳梗塞の薬物治療は、脳の血管に詰まった血栓を溶かす血栓溶解療法(t-PA)と、その治療が行えない場合の治療、そして血栓ができにくくするなどの予防的治療があります。

1.血栓を溶かす

血栓溶解療法 おもな薬(t-PA)

脳の血管に詰まった血栓を溶かして血液の流れを再開させて、脳細胞が壊死してしまうことを防ぎます。 発症3時間以内であれば、『t-PA』という、血栓を溶かす効果が高い薬を使用することが可能です。

2.活性酸素などの有害物質から脳を守る

脳保護療法 主な薬(エダラボン)

脳梗塞が起こり、脳細胞が徐々に壊死すると、その周囲からは活性酸素などの有害物質(フリーラジカル)が発生します。
活性酸素は、脳細胞で壊死していない回復可能な領域『ペナンブラ』を傷つけ壊死させます。
脳保護療法は、活性酸素などの有害物質の働きを抑えて脳細胞を保護します。
脳保護療法 主な薬(エダラボン)

3.脳のむくみを抑える

抗浮腫療法 おもな薬(グリセロール、マンニトール)

脳梗塞は発症すると、脳梗塞が起きた部分の周りがむくみはじめます。
むくみが進むと、正常な脳細胞が圧迫され損傷を受けて、さらに症状を悪化させてしまいます。
抗浮腫療法は、むくみの原因である余分な水分を取り除いて、脳のむくみや腫れを改善します。

4.血栓ができにくくする

脳梗塞の再発予防の治療は、脳梗塞のの原因や種類によって異なります。

心原性脳梗塞栓症-抗凝固療法 おもな薬(ワルファリン、へパリン)

 心原性脳梗塞栓症の原因は、心臓の動きが不規則になることにあります。(心房細動(NVAF))
心房細動があると、血液がうまく流れず、心臓内の血流によどみができるため、血栓ができやすくなります。心臓にできる血栓は、網目状の膜のような、やわらかい赤い血のかたまりで、赤色血栓またはフィブリン血栓と呼ばれます。
抗凝固療法は、血液中の凝固因子を抑え、フィブリンができるのを防ぎ、血液をサラサラにして血栓をできにくくします。

非心原性脳梗塞栓症-抗血小板療法 おもな薬(アスピリン、オザグレル)

動脈硬化をベースとする非心原性脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞など)の場合の血栓は、血液中の『血小板』が主な原因になります。
動脈硬化が進み、血管の内側(内膜)に障害が起きると、その部分には血小板が集まり血栓を作ります。
抗血小板療法は、血小板が固まる作用を抑えて、血栓をできにくくします。

エダラボンによる脳保護療法と血栓溶解療法

  脳梗塞が起こり、脳細胞が徐々に壊死すると、その周囲からは有害なフリーラジカル(活性酸素)という物質が発生します。
そのフリーラジカルは、まだ壊死していない 回復可能な領域である『ペナンブラ』を破壊します。
そこで、フリーラジカルの働きを抑え、脳の障害を防ぐエダラボンという薬を使う『脳保護療法』が行われます。
脳梗塞の発症早期から治療が開始できる患者さんには、t-PA(発症3時間以内)やウロキナーゼ(発症6時間以内)による『血栓溶解療法』と、エダラボンによる『脳保護療法』を併用して脳の障害を最小限に抑えることができます。
脳梗塞の症状を見逃さないで、できるだけ早く医療機関を受診して下さい。

脳梗塞急性期の薬物療法

脳梗塞急性期の薬物療法
治療名 治療の目的 使用される
主な薬品名
発症からの開始時間 適応となる脳梗塞
血栓溶解療法 血栓を溶かし、血流を再開通させ脳細胞の壊死の進行を防ぐ。 t-PA
ウロキナーゼ
3時間以内
6時間以内
すべての脳梗塞
(とくに心原性脳塞栓症)
脳保護療法 梗塞部周囲の活性酸素の働きを抑えて、脳細胞の障害の進行を防ぐ。 エダラボン 24時間以内 すべての脳梗塞
抗血小板療法 血小板の働きを抑えて、血栓ができるのを防ぐ。 オザグレ
アスピリン
48時間以内に開始するのが望ましい ラクナ梗塞
アテローム血栓性梗塞
抗凝固療法 血液の凝固因子に作用して、血栓が大きくなるのを予防する。 アルガトロバン
へパリン
ワーファリン
48時間以内に開始するのが望ましい 心原性脳塞栓症
アテローム血栓性梗塞
抗脳浮腫療法 脳の浮腫(むくみ)を取り、周囲の正常な脳細胞の障害を予防する。 グリセオール
マン二トール
48時間以内に開始するのが望ましい 心原性脳塞栓症
アテローム血栓性梗塞