身体的拘束最小化に向けた指針および適応基準

令和6年9月改訂版

Ⅰ.身体的拘束最小化に関する基本的な考え方

 患者や周囲の生命・安全を守るために、身体的拘束の必要があると判断した場合でも、身体的・精神的合併の弊害にならないように拘束以外の方法を検討する。職員一人ひとりが拘束による身体的・精神的弊害を理解し、拘束廃止に向けた意識を持ち、緊急やむ得ない場合を除き身体拘束をしない医療・看護の提供に努める。

Ⅱ.身体的拘束の定義

 抑制帯等、患者の身体または衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動制限を言う。
身体的拘束に含まれるもの <行動を制限する目的の物>
4本柵・ミトン・抑制帯による柵固定・体幹抑制(マグネット胴抑制含む)、セーフティー、ワンタッチキーパーなど
身体的拘束に含まれないもの <行動を察知し把握する目的>
ウーゴくん、サイドコール、ベッドコール、コールマットなどのナースコール連動型センサー類
終末期患者や意識障害がある場合の患者の安全確認のための行為
透析患者の穿刺部保護のシーネ固定

Ⅲ.適応要件(緊急やむを得ず身体的拘束を行わざるを得ない場合の対応)

1.以下の3つの要素の全てを満たす状態にある場合は、患者・家族への説明の同意を得たうえで例外的に必要最低限の身体的拘束を行うことがある
(1)生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高い(切迫性)
 1)意識状態、興奮性があり患者自らの力で危険を予知し回避行動がとれない
 2)治療上の必要な安静や体位が保てず、医療機器やライン類(以下に示す)を抜去する危険が高い状況で
あり生命の危機、疾病の回復遅延や悪化が危惧される
医療機器 人工呼吸器、心電図モニター、輸液ポンプ、シリンジポンプ、NPPV、体外式ペースメーカー
ライン類 輸液ライン(PVC、CVC、PICC)、気管内挿管、気管カニューレ、脳室・脳槽ドレーン、皮下ドレーン、硬膜外・硬膜下ドレーン、腰椎ドレナージ、胸腔ドレーン、縦郭ドレーン、心嚢ドレーン、グラフト周囲ドレーン、経鼻カテーテル、尿道留置カテーテル、人工透析用カテーテル(ブラッドアクセス)等
 3)自傷、自殺、他人に損傷を与える可能性がある
 4)転倒・転落の可能性が高い
 5)皮膚掻痒、病的反射などがあり、意思で体動を抑えられない
(2)身体的拘束などの行動制限を行う以外に他の方法が見つからない(非代替性)
(3)身体的拘束やその他の行動制限が一時的である(一時性)

Ⅳ.患者及び家族への説明と同意(手順)

1.「身体的拘束の適応と判断した医師は適応理由、方法、予定期間をカルテへ記載。指示を受けた看護師は「安全対策としての身体的拘束に関する説明および同意書」を作成する
2.患者及び家族に、身体的拘束の適応要件に照らし合わせて必要性について説明し同意を得る
3.同意が得られない場合は、身体的拘束は代替案のないことを前提とした行為であり生命または身体が危険にさらされる可能性があること、それをできるだけ回避するためには家族の協力も必要になってくることを説明し協力を得る。その内容もカルテへ記載する
4.同意書は病院用と患者用の2部を作成し、患者または家族の署名後、病院用はカルテへ家族用は患者または家族に渡す
5.安全対策としての抑制を実施するための説明・同意書は入院ごとに作成する
6.回復期リハビリ病棟へ移動となったときは再度、同意書の取得を行う

Ⅴ.身体的拘束の実態と評価

 1.医師との連携
(1)看護師は医師と検討し、身体的拘束の実施の適応要件に応じて実施するか検討する。しかし緊急性がありやむを得ない場合は事後報告とする
(2)1)を実施する場合、主治医と回診やカンファレンスなどを通じて検討する
身体的拘解除に向け24時間以内に2人以上で評価し、解除が出来るか検討する。必ず医師に報告する

2.方法
(1)目的と患者の状態にあった用具(拘束具やセンサー機器)を選択する
(2)物品の装着はできる限り2名で行い、装着や作動の不備がないか確認する
(3)身体的拘束を開始したら、実施入力の「身体的拘束」をありとし、拘束を実施した際は「皮膚・拘縮の観察」と入力し10時・14時・準夜帯・深夜帯でチェック。身体的抑制がない場合は介入を削除してよいが、開始された時点で介入の追加を行う
 ◎安全対策表での評価は入院時・手術後・転棟後・毎週火・金に実施
 注)転倒・転落アセスメントは上書きせず、変更ごとに新規で入力する
(4)適応要件の改善に向けた支援内容を看護計画に追加する
 ※回復期リハビリ病棟は除く

3.身体的拘束の具体例(身体的拘束ゼロへの手引きを参考)
(1)徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
(2)ベッドから転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る
(3)自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む
(4)点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る
(5)点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける
(6)車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないようにセーフティーまたはワンタッチを使用する
(7)立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する
(8)脱衣やオムツ外しを制限するために介護衣(つなぎ)を着せる
(9)他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等で縛る
(10)行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
(11)自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する
(12)4点柵で柵が動かないように固定具で柵を固定する

4.身体的拘束中の留意事項
(1)神経障害や循環障害、褥瘡、スキンテアを予防する(Ⅴ-2)-③に準じて評価)
(2)身体的拘束の部位や時間は必要最小限に努める

5.記録
(1)入院時看護介入へ「身体拘束」の項目を入力10時・14時・準夜帯・深夜帯でチェックし、ありの場合はコメントに抑制の種類を明記する。
(2)身体拘束を開始したときは看護介入へ「皮膚・拘縮の観察」を追加し10時・14時・準夜帯・深夜帯でチェックする。皮膚・拘縮がありの場合は看護記録へ詳細を記入。
(3)24時間以内に2人でアセスメント実施、その時に抑制が必要か否か評価する。
 ※評価の際にはフローチャートを使用していく(転倒・転落の予防対策の基準 5ページ参照)

6.向精神薬・鎮静を目的とした薬物の適正使用
 生命維持装置装着中や検査時等、薬剤による鎮静を行う場合は鎮静薬の必要性と効果を評価し、必要な深度を超えないよう、適正量の薬剤を使用する

Ⅵ.身体的拘束等最小化のための研修

 身体的拘束最小化のために看護職員、看護補助者その他の従事者について、年1回以上の頻度で定期的な研修、新規採用時にも必ず実施する。

Ⅶ.この指針の閲覧について

 当院での身体的拘束最小化のための指針は当院マニュアルに綴り、従事している職員が閲覧可能とするほか、当院ホームページに掲載し、いつでも患者・家族等が閲覧できるようにする。